地域企業のリアルに切り込む
「中小企業の社長って、頑固で人の話を聞かないよね」
地域で支援活動をしていると、そんな声を耳にすることがあります。実際に現場でも、「これは通らなさそうだな」と感じる場面は少なくありません。でも、それをすぐに「話を聞かない人」と断じるのは、少し違うのではないか――そう思うことが多々あります。
私自身の実感としては、その割合は五分五分。確かに、自分の考えに強いこだわりを持ち、他者の意見をなかなか受け入れない社長もいます。しかしその一方で、「良いと思えば取り入れたい」「自分では思いつかない視点がほしい」と、前向きに耳を傾ける社長も少なくないのです。
社長の思いと会社の背景を知ることから始める
支援の現場に入ると、つい課題や目標、やるべきタスクにばかり目が向いてしまいがちです。ですが、本当に大切なのは、その企業の「人」と「物語」を知ることから始めることだと私は考えています。
どんな想いで事業を始めたのか。先代・先々代からどのような背景で事業を受け継ぎ、どんな困難を乗り越えてきたのか。そして、いま何を大切にしているのか。
こうした背景や価値観を理解しないまま進めてしまうと、社長の本音や事業の根っこの部分に届かない提案になってしまいます。
だからこそ、プロジェクトの実行に入る前に、社長としっかり会話ができる関係性を築くこと、企業の歴史や軸を知ることが不可欠なのです。提案の受け入れられ方も、その姿勢次第で大きく変わります。
中小企業の社長には「やりたいこと」がある
多くの中小企業の社長には、「これをやりたい」「こうありたい」という明確な想いがあります。だからこそ会社をつくり、あるいは代々の事業を引き継ぎ、地域の中で事業を守ってきたのです。
とくに、先代・先々代から事業を受け継いでいる場合、そこには「想い」「信頼」「歴史」といった簡単には変えられない重みがあることを忘れてはなりません。
家業としての誇り、地域や取引先との信頼関係、長年のやり方への責任感――それらが「経営判断」の前提になっているのです。
そのため、たとえ支援者として「こうしたほうが合理的だ」と思える提案があったとしても、それ以上に優先したい“信念”や“文脈”があることも多い。
それは変化を拒んでいるのではなく、「守るべきものを理解してくれているか」を確かめているようにも感じます。
支援の出発点は、その軸に共感し、理解すること。社長の考えを理解したうえで、自分の知見や経験をどう重ねられるかを考える――それが、信頼ある提案につながっていくのです。
イエスマンでは意味がない
とはいえ、社長の意向にただ従うだけでは、支援者としての存在価値はありません。それでは単なる外注、作業代行に過ぎません。
本当に求められているのは、社長の方針を理解したうえで、自分なりの視点や経験を加え、建設的な提案をすることです。
そして、その提案も「押しつける」のではなく、丁寧な対話の中で自然にすり合わせていくことが重要です。
たとえ小さな提案でも、相手の考えを理解したうえで投げかけられたアイデアには、必ず価値があります。
信頼関係は、対話からしか生まれない
社長もまた、「言われた通りにやる人」「ただのイエスマン」を求めているわけではありません。むしろ、自分にはない視点を持ち、ちゃんと考えて提案してくれる人を信頼します。
でも、その信頼は一朝一夕には生まれません。
はじめから自分の正しさを押し通すのではなく、じっくりと会話を重ね、少しずつお互いの考えを共有していく。
そのなかで関係性が深まり、「それ、いいね」「一緒にやってみようか」といった前向きな展開が生まれてくるのです。
「意見を聞かない」のではなく、「納得しないと受け入れない」
結局のところ、「中小企業の社長は他者の意見を聞かない」というのは、半分事実で半分は誤解です。
社長は、自分の会社や事業に強い責任感を持っているからこそ、簡単には意見を受け入れない。でも、納得できればしっかりと耳を傾け、受け入れてくれます。
支援者にとって大切なのは、自分の意見を持ちつつも、まずは相手を理解し、信頼関係を築きながら関わること。
その先にこそ、支援者としての価値提供がある――私はそう確信しています。